「憲法を考える全国司法書士ネットワーク」~表現の自由は今~ 福岡大会報告

 2022年7月16日(土)上記大会が福岡市立中央市民センターで開催された。

 第1部ではイラストレーターのいのうえしんぢ氏による「デモってラブレター~本人訴訟で勝訴したサウンドデモ判決の顛末~」と題した基調講演が行われた。

 『サウンドデモ裁判』とは、2011年5月福岡で行われた脱原発デモにおいて、事前に届出をしていたにも関わらず警察から妨害を受けたことに対して、表現の自由について争った国家賠償請求訴訟だ。

 いのうえさんたちは、「何もしないでいたら、これから自由にデモもできなくなる」と考え、勝てる保証はないけど、「世界で起こっいることをこの耳で聞いて、それを自分の頭で判断して、この口で言葉にすることを、誰からも妨害されないこと。この権利だけは守っていきたい。」との思いで国を相手に本人訴訟で闘った。

 手探りの裁判は期日を重ねていき、2015年1月に福岡地裁で勝訴判決。つづく2015年8月に控訴審の福岡高裁でも勝訴し裁判は確定した。
この裁判の経緯や詳細については、書籍「デモってラブレター⁉福岡サウンドデモ本人訴訟顛末記」(樹花舎)に記述があるので、是非手に取って読んで頂きたい。

 第2部は、冒頭で武田哲幸会員による表現の自由について下記内容の解説が行われた。
 
表現の自由には、内心の思想や信仰は外部に表明され、伝達されてこそ社会的効用を発揮するという意味で、精神的自由権の中でも特に重要。
 先ず、表現の自由には次の2つの価値があること。
 ① 自己実現の価値(自由な言論活動を通して、個人の人格を発展させる)
 ② 自己統治の価値(言論活動によって国民が政治的意思決定に関与し、民主制に資する)
 ボルテールの言葉が、表現の自由の精神を表している(私はあなたの意見には断じて賛成できないが、あなたがそう主張する権利は命を賭しても守る)。
 表現の自由の根底にあるのは、思想・言論の自由市場論(正しい主張と間違った主張を競わせれば、正しい主張が生き残る筈だ。)
 次に、知る権利も表現の自由によって保障される根拠について。
 従前は、発言する権利を保障すれば、国民は自己実現、自己統治のための情報を得ることができた。しかし、現代はマスメディアの発達により、国民はマスメディアのフィルターを通した情報しか得ることができず、国民はもっぱら情報の受け手の地位に固定化され、送り手となることができない。

 この状態では、送り手の自由を保障するだけでは国民は情報を得られず、自己実現、自己統治の価値を実現できない(→21条の規定が無意味になる)。
そこで、知る権利も21条によって保障されていると解されているとの説明だった。

 また、国民は知る権利に基づき、公権力の保有する情報の公開を要求できる。 
 何故なら、主権者・国民が政治的意思決定をなすには、情報の公開が不可欠であり、そもそも、公権力の保有する情報は国民の情報である(国民主権原理)。
これに基づき、所謂「情報公開法」が制定された。
 次に、集団行動の自由(集会・デモ)について下記の説明があった。
 情報の送り手と受け手の分離が顕著な現代社会では、集団行動は受け手の地位に置かれている国民が情報の送り手となれる極めて少ないチャンスであり、人権として、最大限尊重されねばならない。従って、公安条例によって規制できるのは、規制の目的が必要不可欠で、手段が必要最小限の場合のみである。

 最後に、武田会員は下記判例を紹介して報道の自由についても21条の保障の下にあることを説明した。

 「報道機関の報道は、民主主義社会において国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである。
従って、思想の表明の自由と並んで、事実の報道の自由は表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることは言うまでもない」(最大決S44・11・26)

 武田会員による「表現の自由」についての解説に続いて、北海道放送が制作したドキュメンタリー番組「ヤジと民主主義」をYoutube鑑賞した。
番組は、2019年7月15日、札幌市内で参議院議員通常選挙の応援演説をしていた内閣総理大臣安倍晋三に対し「安倍辞めろ」「増税反対」などといったヤジを飛ばした男女を北海道警察が拘束、排除した問題と、年金問題に意見するプラカードを無言で掲げていた女性を排除した問題について、また、同様の警察による言論排除行為が、さいたま市においても起こっていることを取り上げている。

 番組内のインタビューにおいて、北海道警察のOBは、「警察組織には、治安維持のためであれば多少の違法行為も許される風潮がある」と言う。更に同OBは、マスコミや市民のカメラの前で、堂々とヤジ排除が行われたことに危機感を示し、「法的根拠のないことがあちらこちらで平気に行われ、市民が知らない間に権利を侵害されている」と警鐘を鳴らした。 

 そして番組は、札幌市内でヤジを飛ばして警察官によって排除された男女2名が、表現の自由を侵害されたとして北海道を相手に国家賠償請求訴訟(以下「ヤジ排除裁判」という。)を起こしたところまで紹介している。

 同番組は2020年2月度ギャラクシー賞月間賞を受賞しており、現在も北海道放送公式Youtubeチャンネルから視聴できるので是非見て頂きたい。

 続いて、秋根会員より2022年3月に札幌地裁で言い渡された上記ヤジ排除裁判の判決の解説が行われた。
判決のポイントは、警察官らの行為は正当化されるとの被告の主張を排斥し警察官らの排除行為を違法であると判断し点。
 原告のヤジについては「公共的・政治的事項に関する表現行為であることは論をまたない」と断じ、かかる表現の自由を警察官らが排除行為によって侵害したと認めた点。そして、原告に対する警察官らの執拗な付きまとい行為について、原告の移動・行動の事由、名誉権、プライバシー権の侵害であることを認めた点であると秋根会員より総括された。

 第2部の締めに、中嶋会員がコーディネーター、いのうえ氏、武田会員、秋根会員がパネリストとなり、会場から意見を頂戴しながら意見交換を行なった。
秋根会員からは中傷が社会問題となったことを機に改正された侮辱罪について、表現の自由の萎縮等の影響がでないかについての懸念が述べられた。
 続いて、いのうえ氏からは公共施設を利用しての集会で、監視カメラを無断で回されていた体験が紹介され、武田会員からは「政治的中立」を理由に自治体が集会の施設使用や展示会の後援を断るケースが頻発していることについて、行政が「政治的中立」をはき違えている点が指摘された。

 会場からは、大学においても自転車窃盗を見つけるためという名目で警察官が大学敷地内に出入りしているとこと、しかも、大学側が警察の出入りを推進しているとの驚くべき報告もあった。

 会場からの意見はまだ出そうであったが、時間の都合により第2部を終了した。
 
 大会は、全国ネットワークの河内事務局長より「憲法についての正しい教育が必要であること。私たち司法書士は法教育で学校と関わることがあるので、もっと憲法を子どもたちに知ってもらう活動をすべきである」と力強い挨拶をもって幕を閉じた。

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