「閣議決定」ってなんだ
「政府が防衛力の抜本的強化を目指して昨年12月16日に閣議決定した「国家防衛戦略」等の3文書。2023年度からの5年間で約43兆円というかつてない規模となった防衛費」
先日の新聞記事の冒頭部分です。
安倍政治で有名になった閣議決定。国民の多くが強く意識したのは、例の集団的自衛権は合憲との閣議決定で強行した安保法制の時でした。
戦後一貫して違憲とされていた集団的自衛権行使が、一片の閣議決定で合憲となってしまう。実質的な改憲であり、安倍クーデターとの声も上がりました。「一体、閣議決定って何だろう」と思っていました。
そして、安倍国葬、安保関連3文書等とやたら「閣議決定」が目立つようになりました。
そこで、調べてみました。閣議決定!
「そんなん常識じゃん!」という人は、スキップして下さい。常識不足の人は、こそっと読んでみて下さい。
1.閣議決定の関連条文
閣議決定とは、まさに閣議による決定のことですが、理解の前提となる知識として関連する条文を挙げます。
憲 法
第65条 行政権は内閣に属する。
第66条 内閣は…内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
内閣は…国会に対し連帯して責任を負う。
第99条 天皇又は摂政及び国務大臣…その他の公務員はこの憲法を尊重し擁護する義務を負う。
内閣法
1条 内閣は、国民主権の理念にのっとり…日本国憲法に定める職権を行う。
4条 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。
6条 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督する。
因みに、内閣法は全26条からなり、1~11条が内閣に関する、12~26条が内閣官房に関する規定です。内閣官房が如何に重要かつ強力な権限を持つかが分かります。
2.閣議(決定)の概要
行政権は内閣に属するわけですが、では、行政権とは何か?それは、立法と司法以外の全ての国家作用(要は、国の仕事ですね)をいうとされます。つまり、凄く範囲が広い。強力な、まさに国家権力ですね。
そして、行政権の行使は閣議による訳ですが、閣議の概要は次の通りです。
① 定例閣議 毎週火曜と金曜の午前中 → 臨時閣議もある
② 参加メンバー 国務大臣全員(決定権はないが官房副長官3人と内閣法制局長官も出席)
③ 閣議の案件(議題) 国の行政全般にわたり広範多岐
一、一般案件 国政に関する基本的項目で、内閣として意思決定を行うべき案件 → 集団的自衛権の合憲性や今回の3文書の決定等から小泉進次郎氏のセクシー発言について「セクシーとは魅力的との意味もある」との閣議決定等様々。
一、内閣提出法律案の立案と国会提出
一、政令の決定(因みに、政令は内閣の命令であり、政府の命令ではない)
④ 閣議決定の条件(全会一致)
議事や議決方法については何の規定もなく、慣行に委ねられています。ただし、「国会に対し連帯して責任を負う」との性格上、全員一致によらねばならないとされています。
因みに、中曽根内閣の時代自衛隊の掃海艇をペルシャ湾に派遣する案件は、後藤田正治氏の反対により決定できませんでした。
民主党政権下では、普天間飛行場の移設問題で反対する福島瑞穂氏を罷免して閣議決定を行った事例があります。
3.閣議決定の効力
ここです、問題は。
閣議決定とは、まさに閣議による決定(閣僚の合意)です。閣僚が全員一致で決定した政府の方針、統一見解ですから、非常に重い重要な意味と効力を持ちます。当然、政府全体を拘束もします。
全員一致の条件は、この強大な権限に縛りをかける意味もあると説明されています。
しかし、法律ではないので、国民に直接強制する効力はありません。
当然のことです。国民の代表で構成する国会のみが「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関」ですから。
あくまでも、政府の最高意思決定ということです。
4.閣議決定の限界性と問題点
内閣に如何に大きな権限があっても、当然立法権はなく、憲法尊重義務や法律を誠実に執行する義務(縛り)が課されています。
閣議決定で、自らを縛っている憲法の解釈を内閣に有利なように変えたり、国の進路を左右する重要な事項を決めたりことはできません。それは、国民主権に反し、立憲主義に反することになります。それは、法の支配ではなく「人の支配」となり、独裁政治に繋がります。
議院内閣制は、議会の多数党派から内閣が選ばれるため、行政権が強大化して三権分立が機能しづらくなる弱点を孕んでいます。つまり、議会の多数派と内閣の一体化、融合化です。これにより、議会が(国権の最高機関ではなく)内閣の追認機関と化す危険性を秘めています。
しかし、だからこそ、強大な権限を持つ内閣には、憲法の理念を生かし、議院内閣制の弱点を克服するよう努力する責務があると思います。
5.「違憲」の閣議決定
安保法制では、従来の「集団的自衛権の行使は憲法違反であり、憲法改正をしない限り認められない」との見解を安倍内閣は、内閣法制局長官の首を挿げ替えて、閣議決定によって合憲解釈へと変更しました。そして、国会では自民党推薦の憲法学者・長谷部恭男氏さえ違憲と指摘している法案を強行採決しました。それにより、米軍が攻撃されれば、日本への攻撃と見做して米軍と共に戦闘することが可能になりました。
安保法制は、実質的な改憲であり、その内容や必要性、リスク等をキチンと国民に説明し、国民に熟慮の機会を十分に保障した上で、改憲の手続きを踏むべきでした。
今回の岸田内閣による安保3文書(敵基地攻撃能力等)にしても、先制攻撃を可能にすることであり、憲法の精神に反します。また、仮想敵国の中国がのほほんと日本による攻撃を待っている筈もなく、怪しいと判断すれば躊躇なく自衛権の発動として攻撃してくると考えるのが常識でしょう。
用語を「反撃能力」等と言い換えるのも姑息で情けないことです。
これらは安倍氏のやり方と同じです。支持基盤の弱い岸田氏が安倍派の支持を得るためと言われていますが、「死せる晋三、生ける岸田を走らす」と言うと、孔明が怒るでしょう。
このように日本は、安易な閣議決定による「改憲なき改憲」によって、極めて危険な道へ大きく足を踏み出したと思います。
この歩みを止めるのは、主権者自身です。
以上、閣議決定の概要と弱点、具体的問題への批判を行いました。
多少なりとも参考になれば幸いです。

武田 哲幸

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