第31回クレジット・サラ金被害者九州ブロック交流集会参加報告
毎年、九州各県で開催される標記交流集会が、2018年は沖縄県で開催された。テーマは、『貧困の連鎖を断とう~庇護や施しではなく権利の視点から~』である。
このテーマを見て、最初に思いを至らせたのは、「生活保護バッシング」の問題である。近年、生活保護受給者に対して、ごく少数の不正受給者を大々的に取り上げて、生活保護受給者全体を貶め、メディアまでもが先導して生活保護受給者個人を責め立てることがまかり通っている。削減される社会保障費、非正規雇用による貧困等、国の責任を棚に上げ個人にその責任を押し付けている一方で、生活保護受給者は負い目を感じ、生活保護を恥と感じている。「我々は正義だ」のジャンパーを着た小田原市職員が生活保護受給者の住居へ訪問していた事例も記憶に新しい。
基調講演では、長崎短期大学講師志賀信夫氏が、「貧困って何だろう!お金がないこと?モノがないこと?~社会的排除からみる貧困~」のテーマで、議場に質問を投げかけながら、貧困の実態について講義が行われた。
志賀信夫氏は、故郷である宮崎県での運動から、貧困問題を当事者の問題として矮小化しては解決に向かう事はできない、貧困問題を市民全体で社会問題として認識し、その根底にアプローチしていかなければ解決は不可能であるとの問題提起を行った。例えば、社会問題としての労働問題である。現代の日本は、年々非正規雇用従事者が増加し、その割合は4割に迫っており、「ワーキングプア」が社会現象となって久しい。そして、労働者は雇用条件について、雇用者にものを言うことができないでいる。しかし、人類には労働者の権利を富裕層と闘って勝ち取ってきた歴史がある。現代日本でもこれらの歴史に学ぶことができる。現代資本主義社会に生きながらも、資本のための商品になるのではなく、地域の中で声を上げ、運動を巻き起こしていくなかで、社会問題として世論としていくことも一つの方策である。貧困問題が世にあることは、自由すなわち人権の保障が実現されていないとでもある。国家によっても侵すことのできない人権は、決して国家からの庇護で与えられるものではない。それ故、社会の認識が異なっているのであれば、我々の認識自体を本来のあるべき姿へ変え、ひいては社会の認識へと広げていかなければならないとの提言がなされた。
第1分科会「社会的排除からみる沖縄の貧困」では、全国でも有数の貧困率を計上する沖縄の貧困の現状とその本質、課題について、司法書士安里長従氏を中心に、講義が展開された。まず、沖縄の数値上の貧困率は29.9%(2016年)であり、全国平均18.3%に比べて、約2倍となっている。また、自殺者数は死亡者1000人あたり25.87人で全国1位(2015年)、離婚率も2.51件(2014年)で全国1位と、貧困と密接な関係にある数値が全国に比べて高い水準にあることが報告された。時に、沖縄の貧困の原因を、その県民性として論じられたり、ヘイトとも言える誤った情報により断じられることもある。例えば、「沖縄は全国一平均所得が低いが、実は年収1000万円以上の所得を得ている人は全国10位で、金持ちも多い。」との認識がなされることがあるが、実態は異なり、年収1000万円以上の高額所得世帯数は全国最下位であり、階層割合においても全国最下位である(就業構造基本調査2012年)。また、「沖縄県はオーナー系企業が多く、一般の従業員には十分なお金を回さず、親族にしかお金を回さない。」などと論じられることがあるが、実際にはオーナー系企業の割合は、全国で2番目に低い(帝国データバンク2017年)。このように、事実と異なる情報を強調されることにより、印象論・沖縄論へと問題を矮小化されているのである。沖縄の貧困の実態に迫るには、1879年の琉球処分、沖縄戦による荒廃、本土から沖縄への米軍基地集中へと目を向ける必要があり、これらに起因する労働政策、社会保障制度の遅れ、現実の基地問題、それらと一体になった沖縄振興体制という構造的な問題が複雑に絡み合っている。沖縄には、本土との自由との格差が現実に生じているのである。これら様々な要因を紐解き、既存の枠組みの中で解決・改善できること、中長期的・短期的に取り組むべきことを分けて、同時に取り組むことが必要であるとの提言がなされた。
分科会では、沖縄県民が主体として参加し、自己決定に基づいた運動を全県で起こしていくことで、貧困問題解決への道標となるだろうとの報告がなされた。しかし、本土に生きる我々としては、沖縄県に見られる問題を、対岸の火事として捉えるべきではないだろう。大小はあれ、貧困問題は社会問題であり、どこでも存在している問題である。また、沖縄県と沖縄県以外で格差が生じていることは、「平等」が侵害されているという問題でもある。法律家の使命が人権擁護にあることを今一度確認し、貧困問題に取り組んでいきたい。

世古 英樹

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